原子力技術の周辺にこれからビジネスチャンスを見出す事業体について話せます
2022年初頭現在、ここ10年余日本の原子力利用は単に停滞しているのではなく、不可逆的に化石化してると考えています。理由は、建設・運転・保守人材の現役引退と継承者不在による技術伝承の断絶です。かつて私はこの感想をフォロワーが50人に満たないツイッターに書いたところ見とがめられ、「マニュアルがあるだろう」と何かのスレッドで(おそらく)若い世代に嘲笑され、あずかり知らぬあいだにあっというまに「炎上」し、たまたまその内のひとりから知らされて即、一時的に「鍵アカ」にして難をやり過ごしました。
卒業研究に太陽(熱)発電を選び、序文に人類は原子力発電を制御できていないと書いたものの、無くせないなら少しでもいいものにしたいと東芝の原発部門に就職した私ですが、配属されたのは次の「もんじゅ」はともかく次の次の実証炉は30年後、という高速増殖炉部門でした。
新入社員実習で田中角栄現役最終盤の地元、反原発意識の強い柏崎刈羽1号機の試運転業務に半年間従事し、イッピン物の巨大な複合機械施設である原発の、核燃料装荷直前のもっとも人間的にダイナミックな職場で、隣り合った宿舎で「風呂場に(刺青で)花が咲く」と聞く中間労働者と、さらに名も知らぬ末端下請け労働者と同じ環境で働き、マニュアルでは絶対にわからない経験をしました。
その後本社に帰社したのち、もんじゅの炉心上部機構(制御棒を挿入したり、炉心のナトリウム流量を測ったりする重要設備)と遅発中性子法破損燃料検出装置等の担当を経て今度は、かつて事故隠しで解体・統合された動力炉・核燃料開発事業団に出向し、大洗工学センター内の高速増殖実験炉「常陽」の原子炉一課、燃料取扱グループのいち職員として放射線管理手帳をもち、出力運転時にはガンマ線が普通に飛び交う職場で実務に携わることになりました。通常運転としては、「燃料破損」を想定していない「常陽」の設備で、燃料破損を模擬した実験が行われることになり、例外的なアルファー線発生を目の前にしたこともあり、先頭にたって作業する放射線管理グループリーダーがいる一方、わがグループのリーダーは雲隠れし、ひとり安全な場所で姿をみかけるなど、若かった私は幻滅したのでしょう、ほどなく東芝・動燃を同日退職しました。
原子力ムラからは完全に足を洗って30年経ちますが、我が国の原子力開発が人材的に危機的状況にあることともうひとつ、世界的にみてより深刻なのは、被爆体験国として、イチエフの事故以来、政府と「専門家」に対して、分野外の知識人を含む大多数の国民がもはやアナフィラキシーというべきレベルのアレルギー反応を示すことです。これは、ツイッターを主とするSNSの世界では、デマを含めて瞬時に拡散し関わる事業者にとっては致命的なリスクとなります。
大震災直後、非常用発電機が起動不能、なぜ?津波に浸かった!?と知った直後、私はチェルノブイリ・キエフ間の距離を調べ、最悪のケースで東京から難民が静岡に押し寄せる準備をしました。また、漏れ出した液体から、ベータ線が検出されたと聞いた時の絶望感は今も覚えています。本来、みつかると短期的にはもっとも厄介なのはアルファー線(を出す物質)ですが、これは検出が非常に難しいので報道もされませんでした。
時間あたりマイクロのガンマ線が通常環境の10倍であろうと、健康被害は起きない、という知見が、皮肉にも広島・長崎の尊い犠牲のもとに膨大な専門知識として我が国には蓄積されているのです。直後に鼻血を出した子供さんが、親御さんの悲鳴とともに一部のマスコミが報じられましたが続報はありません。が、つい最近もここ10年の甲状腺がんの発生に対して億単位の訴訟が起きており、恐怖心だけが一般人の深層心理に刻みつけられ続けています。
直接的な原子力利用、すなわち発電事業については、元々プレイングメンバーは限られており、高騰する電気代と海外情勢からの一周遅れに気づいて慌てて泥縄式に補助金・助成金でなんとか取り繕われるのでしょうが、先駆けて原子力技術の周辺にビジネスチャンスを見出す事業体には、核に関する基本的な専門知識と、デマ含みで一夜にして拡散する「世間」を分単位で相手にする統合された部門が必要です。
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職歴
トルガー株式会社
- 代表取締役社長 2021/2 - 現在
oikura・com
- 2013/1 - 現在
静岡県商工会連合会
- 登録専門家 2016/1 - 2021/3
ミラサポ
- 派遣専門家 2015/12 - 2021/3
トルガー株式会社
- 顧問 2019/11 - 2021/1
鳥取県戦略産業雇用創造プロジェクト推進協議会イノベーション・テクノロジー・センター
- ITeCアソシエイツ 2014/4 - 2015/3
株式会社レクサー・リサーチ
- エンジニアリング・エキスパート 2014/2 - 2015/3
ヤマハ発動機
- IM事業部 1989/9 - 2010/10
動力炉・核燃料事業団
- 大洗工学センター・実験炉部 1987/4 - 1989/8
東芝
- 動力炉開発部 1983/4 - 1989/8