化学合成マトリックスを用いて、汎用素材や電子素子の表面を細胞接着リガンドでコート、“新規培養基質”を創造する
今では汎用化したかつての新規素材や電子素子に、新たな需要を掘り起こせないか? これまで蓄積した自社の技術資産を、新たな市場開拓に繋げられないか? こんな悩みをお持ちならば、少しはお役に立てるかもしれません。
私が提案するのは、今では汎用化した素材や電子素子を“新規培養基質”に変換し、その基質を用いて標的細胞を培養し、新たな価値を創り出したことです。 『全くのミスマッチ』とか、『無茶な話』と感じられるかもしれません。しかし、既に幾つかの実施例を、“生体影響を計測できるバイオエフェクトセンサ”や“BioEffect Sensors (実施例)”欄に、経験内容として upload しています。
これまで細胞培養は、伝統的に培養皿やフラスコで行われてきました。この間の培養基質に関する改善と言えば、細胞外マトリックス(ECM: Extracellular Matrix)をコートする位です。 この因習的とも云える伝統的手法を根底から見直した先に、新たな技術分野と市場が見えて来ます。
金、SiO2/TiO2/LiTaOx 等の無機物、GaAs等の半導体素材、カーボンナノファイバー、合成細繊維、合成ゴム等を、細胞培養可能な表面に改質することで、新たな価値が創造できます。製造過程を変える必要はありません。製造の最終段階で、化学合成マトリックス(擬似マトリックス)(特許4555773号:細胞培養基質および細胞接着蛋白質またはペプチドの固相化標品)を穏和な条件でコートするだけです。
化学合成マトリックスは、生物由来のECMsとは異なり、溶剤に溶かしても化学的にとても安定です。微細印刷技術があれば、パターン印刷した個所に限定して細胞培養するのも一案です。
素材と化学合成マトリックス溶液を、37℃で1時間以上インキュベートするだけで、簡単に素材の表面改質ができます。生物由来の ECMs とは異なり、化学的にも温度的にも安定です。自社の素材に新たな用途を開発したいと考えていらっしゃる方、一度化学合成マトリックスをご検討されては如何でしょうか?
① 金や白金電極上で、安定して神経を培養できる
神経細胞と金/白金との親和性は、それ程良くはありません。白金/金の表面に凹凸を付けて細胞接着性を改善しようとしても、多少の改善しか期待できません。それよりも、親和性を有する疎水性側鎖で金/白金と強く結合し、神経細胞に親和性を有するもう一つの細胞接着リガンド側鎖で、神経細胞と強く結合する。
この化学合成マトリックスをインターフェースに用いることで、細胞接着性は著しく改善されます。インクジェットの技術をお持ちならば、化学合成マトリックスをプリント配線し神経回路を作ることも、原理的には可能です。詳しくは、“生体影響を計測できるバイオエフェクトセンサ”をご一読下さい。
② 微小流路の経路に、培養細胞層を安定して形成できる
微小流路で細胞培養するには、流れが作り出す shear stress によって、細胞層が剥がされるリスクを克服しなければなりません。生物組織由来のECMsを、流路の細胞接着面にコートする対策も考えられますが、
a) 塗布したECMsと流路を形成する材質との親和性が低いと、培養中にECMsごと細胞が剥がれる。
b) 上皮細胞の機能を維持するには、安価な間充織型のECMs(Ⅰ型コラーゲンやフィブロネクチン)では形質変化の恐れ有り。ラミニン-111は胎児型で、高価で成熟上皮型のラミニン-511が望まれる。
c) マトリゲルコートの場合、均一な厚さにコートするのが難しい(流路の断面が不規則に変わる)とか、軟らかいゲルが流圧で次第に剥がされるとか、色々課題を解決しなければなりません。
それならば、いっそECMsの代わりに、化学合成マトリックスをインターフェースに用いては如何でしょう。親和性を有する疎水性側鎖で流路に強く結合し、培養細胞に親和性を有するもう一つの細胞接着リガンド側鎖で、細胞層を安定的に流路に繋ぎ止める。詳しくは、“生体影響を計測できるバイオエフェクトセンサ”をご一読下さい。
③ 2DEG-FET等の半導体上で安定した細胞培養が可能になり、細胞活動の変化を Real-Time & On-Line で計測・検知できる。
④ SH-SAW chip のLiTaOx 上で細胞培養が可能になり、細胞-細胞間結合の状態を、電気的にモニターできる。
③,④については、“生体影響を計測できるバイオエフェクトセンサ”をご一読下さい。
⑤ ファイバーや合成細繊維で安定した細胞培養が可能になり、リアクターの用途に使える。
⑥ 無機物の表面を、安定した細胞層を形成する場にできる。その結果、ホスト組織との親和性が向上する。
■その他
地域: 茨城県つくば市
役割: プロジェクトリーダー
規模: 国立環境研究所
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職歴
職歴:開示前
このエキスパートのトピック
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生体影響を計測できるバイオエフェクトセンサ
問い合わせバイオセンサというと、生体内の特定の物質を計測するイメージがありますが、ここで云うバイオセンサとは、生体影響を直接計測できる BioEffect Sensor を指します。通常、生体影響を計測するには、実験動物や培養細胞/組織に試験物質を投与し、バイオマーカーが好ましく無い値にどの程度振れるかで、影響の有る無しを判断します。その為には、バイオマーカーの抽出作業や高価な計測機器が必要だったりします。しかも、種々のバイオマーカーが変動するので、個々の結果は明確でも、総体的にどの様な影響が有ると結論すれば良いのか、とても困ることがあります。 高価な計測機器が無くても、かくかくしかじかの生体影響が有ったと、もっと簡単に計測できないものでしょうか? それを可能にするのが、BioEffect Sensor です。 原理はとても簡単です。生体影響を計測できる電子素子上に、直接細胞を播種し、in vivoを模した標的組織を構築します。標的組織の活動は、電子素子によってReal-Time & On-Line で電気信号として計測されます。試験物質によって標的組織が傷害/変調を来すと、細胞の形態や活動が平常とは異なった状態に移行しますから、それが信号の変化となって検知できます。高価な計測機器は必要有りません。 そんなに簡単に行くものか?と怪訝に思われる方もいらっしゃるでしょう。確かに、幾つかの技術的課題を解決しなければなりません。 1)絶縁性の確保 細胞を培養する訳ですから、電子素子との絶縁を確保しなければなりません。しかし、電子素子が構築組織の活動を感応できなくする/遮断してしまう絶縁膜では困ります。 2)細胞接着性の賦与 そもそも電子素子の表面には、細胞が接着する為の足掛かりとなる 細胞接着リガンドがありません。そのままでは、細胞は電子素子上に安定して接着することはできませんし、益して人工組織の形成は無理です。動物組織から採取した細胞外マトリックス(ECMs)を塗って、ECMs が持つ細胞接着リガンドを、代わりの足掛かりにすることは可能ですが、問題があります。そもそもECMsは、電子素子との親和性を高く維持しつつ分子進化した訳ではありません。偶々、電子素子表面の疎水性ポケットに、ECMs の疎水性基が感応して結合したに過ぎません。その結合は不安定で、培養途中で剥がれることも有り得ます。高分子蛋白なので、変性しない様に細心の注意が必要ですし、一般には高価です。 解決策は、疎水性の側鎖(例:フェニル基)と反応基(例:無水マレイン酸)の側鎖を持つ直鎖状のビニルコポリマーに、細胞接着リガンドを化学結合させた“化学合成マトリックス(擬似マトリクス)”を活用することです。多数の疎水性側鎖が電子素子との疎水結合を安定化させ、もう一つの側鎖、細胞接着リガンドが細胞接着の足掛かりを与えます。詳しくは、経験内容3,及び、特許第4555773号をご覧下さい。 3)パッケージ化 BioEffect Sensor は使い易くなくてはなりません。その為には、電子素子を microfluidicsにパッケージ化する必要があります。その後、化学合成マトリックスで電子素子の細胞接着面を改質し、細胞を播種して標的組織を形成すれば、でき上がりです。室温に2-3日放置しても細胞が死ぬことはありません。37℃に戻せば、再び正常な信号を出します。即ち、パッケージ化することで、生産者とユーザーを分けることが出来、ready-to-useな製品として、通常の物流に載せて届けることが可能になります。
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BioEffect Sensors (実施例)
問い合わせ4)これまで開発した BioEffect Sensors をご紹介します。 ①NO分子を補足して電子を放出するFe3+-chelating polymer(PMP complex) PMP complex層を金電極上に形成し、そのポリマーを化学合成マトリックスでコートし、血 管内皮細胞を播種・培養した。刺激物質に応答して内皮細胞が放出したNO分子を電流として検出する。試験物質の投与によるNO放出量の変化をモニターすることで、血管内皮細胞への傷害を計測できる。 Ref: Anal. Chem. 80(5) 1505-1511 2008. ②GaAs 2DEG-FET半導体 2DEG-FET の表面をTiO2スパッターで絶縁した後、表面を化学合成マトリックスでコートし、上皮細胞を播種・培養した。細胞が放出するプロトン及びH2O2に感応する。 Ref: Surf. Interface Anal. 40(3-4) 579-583 2008. 他2報 ③LiTaOx SH-SAW chip 櫛形電極を、SiO2スパッターで絶縁した後、表面弾性波(SH-SAW)の伝搬面を、化学合成マトリックスでコートし、上皮細胞を播種・培養した。酸化的刺激に対して細胞-細胞間結合等が損傷し、その細胞骨格構造変化に呼応して、SH-SAWが変調した。 Ref: Ultrasonics 54(6) 1430-1438 2014. Sensors and Actuators A: Physical 200 162-167 2013. これらの論文は、Researchmap (https://researchmap.jp/sBM_matrix) に upload して あるので、ご覧になれます。 また、③についての詳細は、環境省終了成果報告書 https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/syuryo_report/pdf/C-0803.pdf C-0803 i-xiv, pp1 - 92 2014年を、ご覧下さい。 5)コロンブスの卵 培養皿で細胞を培養し、そこから蛋白質やmRNAを抽出して分析する。あるいは、マークした物質の挙動を、共焦点顕微鏡等で観測する。伝統的な方法論を否定するつもりはありませんが、個々の電子素子が持つ潜在的展開を放棄することになります。“電子素子上で細胞を培養する”というコペルニクス的展開をした結果、再構築した標的組織が示す生理的変化を、Real-Time & On-Line で追跡することが可能になりました。 確かに、伝統的な方法に比べれば、個々の標的分子の挙動を微に入り細に入り計測とは行きませんが、最終的に我々が知りたい一点、“試験物質による生体影響は有るのか無いのか?”、“健康にとって、要監視なのか、それとも無害なのか?”について、明解な結論を得ることができます。Fast & First Alarming には最適です。 これまでは、各種センサが発する情報量に十分対処できなかった経緯がありました。現代は、あらゆる電子機器がネットに繋がり、通信速度と容量が5G世代へと移行しつつあります。 AIの活用も踏まえながら、Sensor Business の新たな展開が幕を開けようとしています。自社の誇るセンサについて、一度ご検討されては如何でしょうか。
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ES/iPS 等幹細胞の継代における細胞外マトリックスの活用
問い合わせES 細胞や iPS 細胞の継代培養の際、大多数の人は、細胞外マトリックスの重要性を認識せず、漫然と ECMs や feeder を選択しています。失礼な物言いで申し訳ないのですが、その結果、継代時に於ける増殖し難さや遺伝子発現の shift/diversity と云ったトラブルを抱えることになっています。私の提案は、シンプルです。幹細胞が in vivo で接していた固相環境に近い基底膜環境で培養することです。そうすれば、幹細胞は自ずと、播種された基底膜という固相環境を自分に合うように修正・最適化するので、大方の問題は起きません。基底膜とは、播種した細胞によって自由に書き替えられるマトリックスだからです。 例えるなら、ECMs coat は、不毛の砂漠に種子を播くようなものです。厳格な液肥(培地組成)や生育の管理が求められます。基底膜に播種するとは、沃土に種子を播くようなものです。液肥や生育の厳格さは、前者より遙かに簡素で済みます。 論文を闇雲にフォローして上手く行かないと困っている時は、一度立ち止まって、このこと(適切なマトリックスを選択する)をご検討されては如何でしょうか?